
七十二候:雷乃収声/季語:月夜・月の宴・秋の声
『源氏物語』には、月の場面が数えきれないほど出てきます。そして、そのほとんどが別れか、思い出か、届かない気持ちと結びついています。
理由があります。月は誰の上にも同じように出ている。だから離れた者どうしが同時に見ることのできる、唯一のものでした。手紙は届くのに時間がかかり、会いに行くには方角の吉凶まで気にしなければならない。そんな時代に、月だけは同時刻に共有できたのです。
「今ごろ、あの人も同じ月を見ているだろうか」——この思い方は、通信手段がないから生まれました。
いつでも連絡がつく私たちは、その代わりに、この思い方をほとんど失いました。
今夜の月は、誰と同じものでしょうか。
今日の一語 月やあらぬ…… 在原業平の歌の一句。月も春も去年のままなのに、自分だけが変わってしまった、という嘆きです。

