
七十二候:水始涸/季語:夜長・灯火
平安の貴族は、よく碁を打ちました。男女を問わず、です。
『源氏物語』には碁の場面が何度も出てきます。空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ)が碁を打つのを、光源氏が几帳の隙間から覗く場面は、物語のなかでもとりわけ有名です。夏の夜、灯りのもとで二人の女性が碁盤を挟んでいる。その姿を、外から見ている人がいる。
覗かれていることに、二人は気づいていません。碁に集中しているからです。
平安の遊びには、そのあいだ人が無防備になるという性質がありました。碁も、香を当てる遊びも、貝合も、夢中になれば周りが見えなくなる。物語がそこで動くのは、そのためです。
千年前から、盤を挟んで向き合う時間は変わりません。
今日の一語 垣間見(かいまみ)る…… 物の隙間からそっと見ること。平安の物語は、たいていこの一瞬から始まります。

