
七十二候:霜始降/季語:秋深し・そぞろ寒
日本語でもっとも訳しにくい言葉の一つが、あはれです。
もとは感動詞でした。「ああ」と「はれ」——思わず漏れる声そのもの。それが名詞になり、形容動詞になり、ついには美意識の名前になりました。
大切なのは、悲しいという意味ではないことです。うれしくても、美しくても、しみじみと胸が動けば「あはれ」。心が動いたこと自体を指す言葉で、感情の方向を問いません。
江戸の本居宣長は、『源氏物語』の本質は教訓でも仏教でもなく「もののあはれ」を知ることにある、と説きました。ものごとに触れて、心が正しく動く。それが人として大事なことだ、と。
言葉の始まりが、声にならない声だった。日本語の美意識の中心に、そういう言葉が座っています。
今日の一語 もののあはれ…… ものごとに触れて、しみじみと心が動くこと。悲しみに限らず、心が動いたことすべてを指します。

